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2023年夏季号 NO.272
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC
  短歌と晩年 宮崎 弘
〈15首詠〉 小原起久子・堀江良子・佐藤和子
〈山下和夫の歌〉 1983年『埴』3月号より 
   30首詠 ゆめならず より10首(Ⅱ)
〈作品Ⅰ㋑〉 宮澤 燁・森たま江・
       宮崎 弘・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・石井恵美子・
       赤石美穂・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 天田勝元・伊藤由美子・
       大場ヤス子・ほか
〈山下和夫の歌75〉   小原起久子 
 歌集『耳』(1995年第5歌集)
 錯誤4   
〈まほろば集〉﨑田ユミ・萩原教子
〈作品Ⅱ〉  今井洋一・小曾根昌子・ほか
〈会友〉  井出尭之・川西富佐子・ほか
一首鑑賞  今井洋一・萩原教子
プログレス賞の紹介 小原起久子
ONE MORE ROOM 小原起久子
  山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より  
  35【抽象表現について】
〈題詠〉光
  板垣志津子・大場ヤス子・﨑田ユミ・
  佐藤香林・藤巻みや子・茂木惠二
短歌の作り方覚書  19
 難解歌の効用 堀江良子
玉葉和歌集(抄)21      時緒翔子
『炎の女たち』古代篇(45) 山下和夫著
冬季号作品評 
 作品Ⅰ評        赤石美穂
 15首詠・まほろば集評  佐藤真理子 
 作品Ⅱ・題詠評      菊池悦子
ばうんど
ESSAY 赤ひげ先生  清水静子
新刊紹介
編集後記
表紙絵 山下和夫

会員作品(抄)
 ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
夏直前の人の孤独を重くする地表をつかむ
梅雨雲の日々   小原起久子 
雲の峰のつくる湖姿変え青の底いの
限りもあらぬ   堀江良子
師の古希の茶会に紅(べに)の茶巾あり香気ただよい
花やぎ添える   佐藤和子
山下和夫の歌 1983年『埴』3月号30首詠
 ゆめならず より 10首〈Ⅱ〉
風の峠踏み越えゆきし寒行(かんぎょう)の
いま一列(ひとつら)の白き雁(かりがね)
         山下和夫
サイタサイタサクラガサイタ春ごとに
わが南(みんなみ)の島玉砕す
         同
【作品Ⅰ㋑】
七音の詩を生すごとく私から知る権利を奪う
「秘密保護法」  宮澤 燁
聞こえくる春の音階ろう梅の黄の花びらは
北風にふるえつ  森たま江 
新しき三年日誌を開き視る未知の世界を
綴る余白を    宮崎 弘
朝の陽を受けて衣を脱ぐように山は静かに
色変えてゆく   牧口靜江
陽炎は大樹を揺らしハイウェイの騒音を連れて
空に溶けゆく   江原幸子
夏の朝芝刈りの音にまどろめば草いきれの
香に包まれてゆく 石川ひろ
〈帰りたい〉と嘆きし家に亡母眠らせ心落ち着き
甘い酒のむ    元井弘幸
【作品Ⅰ㋺】
カーブするきみの車を隠しゆく三本五本と
街路の木々が   相良 峻
雑木林(ぞうきりん)どんぐり土に落ちる音
振り向くほどに確かなる音 石井恵美子
扱いのよく解らぬタブレットの廻転鮪の
鮮度を覗く    赤石美穂
抹茶ラテのさわさわと盛り上がる泡目にやさしきを
掬い飲みたり   西村英子
千年を花びら餅は初釜の席にみやびを
とどけつづける  板垣志津子
見飽きたるロシア侵攻のテレビ消し小遣い稼ぎに
パチンコに行く  今井五郎
離(さか)りゆく思い何時から 気付かざりし我
責めるごと青柿は落つ
         佐藤真理子
【作品Ⅰ㋩】
一年と三月で逝きし兄の分取り戻すごと妹夜泣きす
         天田勝元
左手で書き給う兄よりの葉書一文字毎に
リハビリの跡   伊藤由美子
ドイツゆくロマンチック街道の小花咲く道ミュンヘン・
ドナウ川     大場ヤス子
医師曰(いわ)く「肺炎、肺炎」われの「えっ?」は
置き去り ベッドで酸素吸う日々 菊池悦子
夕暮れの玄関にゐる飛蝗(ばった)一匹青き翅とぢ
冬寄せつけず   佐藤香林
カーテンを開ければ隣家の地境に私の伐れぬ
南天実る     清水静子
畑すみに杭に掛けられ手袋の人さしゆびが
天を指しおり   反町光子
旧友は物価高騰に打ちのめされ黄泉へと向かうか
ひたすら𠮟咤する 坪井 功
ヒタキよそんな小さな黒い目で見られて
鈍な鳥の気分だよ 藤巻みや子
【まほろば集】10首
ボンネット輝(て)らし花火の乱れ咲く屋根と屋根との
はざまの生きに  﨑田ユミ
ほんのりと夜明けの空に浮いている月のかおりの
黄のりんごむく  萩原教子
【作品Ⅱ】
ハロウィンの魔除けになれる面構え人肉の味
柘榴弾ける    今井洋一
枯草を引く指先にふれて落ちし夏のなごりの
空蝉すくう    小曾根昌子
【会友】
大雨の大地うつ音に耳澄ます百近き母に会いたき
真夜       井出尭之
留守なのに宅配便のまだ若き男が深々
頭下げいる    川西富佐子
小学校の卒業式 その日限りの式服で友と語らい
いつもの通学   髙橋眞砂江
牧水は水上の山河に心置く思慕はふるさと
父母の姿なり   土屋明美
冬のおとずれ知らせるような山茶花の満開の紅
あかずながめる  中山幸枝
お相手は子のある女性(ひと)と知らされる
 選んだ息子の胸の広きよ 
         牧野八重子 
【題詠】光 3首
あたらしき光あふるる庭隅に水仙一輪
おのが世界を   板垣志津子 
オーロラの光りさがして北極の氷湖に立つ
フィンランドの光 大場ヤス子 
鎮座する榛名の山も目覚めしか紅葉やもみじ
光に煌めく    﨑田ユミ 
立春の空より聴こゆる山鳩の声やはらかし
ひかりに満ちて  佐藤香林 
西の方(かた)にいくさはありぬ枇杷色に朱がちりちりと
光る夕空     藤巻みや子 
朝光をさえぎりたしとわが重きこころが窓に
黒紙を張る    茂木惠二