最新 2025年冬季号

2025年冬季号 NO.283号
〈MICROSCOPIC&MACROSCOPIC
  50周年に思うこと 佐藤真理子
〈15首詠〉 今井五郎・矢島由美子
〈山下和夫の歌〉1997年『埴』8月号より
〈作品Ⅰ㋑〉 小原起久子・宮澤 燁・
       宮崎 弘・ほか
〈作品Ⅰ㋺〉 相良 峻・赤石美穂
       佐藤真理子・ほか
〈作品Ⅰ㋩〉 天田勝元・伊藤由美子・
       今井洋一・ほか
ONE MORE ROOM 小原起久子
   山下和夫著 『現代短歌作品解析Ⅲ』より
    46【遠くへ飛躍を】
一首鑑賞   佐藤香林・堀江良子
「HANI」の歌友の歌から 小原起久子
〈会友〉   板垣志津子・井出堯之   
       川西富佐子・ほか
〈まほろば集〉石井恵美子・佐藤和子
短歌の作り方覚書 30
 想像力のスパイス    堀江良子
〈題詠〉水  藤巻みや子・清水静子・石井恵美子     
       佐藤和子・大場ヤス子・板垣志津子
       﨑田ユミ
ESSAY  忘れられたこと 元井弘幸
     死んだ男の残したものは 小原起久子
玉葉和歌集(抄)31  時緒翔子
25年夏季号作品評 
作品Ⅰ評        宮崎 弘  
15首詠・まほろば集評 佐藤香林
作品Ⅱ・題詠評     萩原教子
ばうんど
編集後記

表紙絵 山下和夫

会員作品(抄)
 ふりがなは作者による。原文はルビ形式。
【15首詠】
新調のベルトでこころ締め直し貫前神社に
詣でる元日       今井五郎 
地震(ない)続く輪島の焼け跡プレハブに明り点して
笑いを戻す       同 
IT化の波越えられる脚力を鍛えねばならぬ
我昭和生まれ      矢島由美子 
室内の延長コードの混線をほぐしきれない
今日の気がかり     同 

【山下和夫の歌】 1997年『埴』8月号より  
黄金(こうこん)の一顆玄冬の空(くう)に在り今このものに
名称要らぬ        山下和夫 
僥倖という文字を書きつつまた揺らぐわが身のうちの
昏き一隅        同 
【作品Ⅰ】㋑
通勤の人らの頭上 電線の不協和音が冬の伴奏 
            小原起久子 
青き地球(テラ)とて天帝のたましい突き抜けて
跳び来るミサイル    宮澤 燁 
宇宙からとどくひかりの縁側に手足を伸ばし
思いをほぐす      宮崎 弘  
人生の坂登りつめ疲れたらここに憩えと
木陰の椅子が      牧口靜江 
ゆく先を見失いしかお互いに絡みあいいる
朝顔の蔓        江原幸子   
一期一会と思い見つめれば沈黙は光となりて漂う 
            堀江良子
海のほとり歩むあなうら圧しくるは病む身にかなふ
砂の弾力        藤本朋世
牛飼いの男一人テレビに見き原発事故地の一八〇頭 
            佐藤和子 
職引きてユーチューブチャンネルの中に旅をする
自由自在に世界旅行   石川ひろ 
無塩せきハム免罪符のごとくカゴに入れポテトチップスの
大袋も買う       元井弘幸 
【作品Ⅰ㋺】
白薔薇をはらり崩して古参なる色に染まれる
議員ら健在       相良 峻 
サフィニアの花芽夜毎に盗みたるででむしに向ける
わが角と槍       赤石美穂  
雪の夜を鈍く光りし玉椿母の形見の
銀の帯留        佐藤真理子 
【作品Ⅰ㋩】
次々と歌湧き出でて書き留めるいとまなき朝
心楽しも        天田勝元 
カレンダーを一枚めくれば別世界夏の木立に
夏の風吹く       伊藤由美子  
十年後の開帳時は黄泉かもと思えど念ず
数多の願い       今井洋一 
ピラミッドは王家の墓と砂に建つそを守るスフィンクス
夫に似ている      大場ヤス子 
彼岸会の参加は息子 プルシアンブルーの空の
金堂眺む        菊池悦子 
榛名湖の氷結の上渡りくる風は身体を
頬を切りゆく      﨑田ユミ  
蕺草(どくだみ)を抜けば根の国の音がする ぷちつと切れて
彼の世へ逝くか     佐藤香林 
里の川電車の窓に現われし心細げに
水量少な        清水静子 
雪柳の小さき花びら散りかかりスカートの裾
巡り離るる       反町光子 
寒空に真緑の芽はチューリップ吾子の笑顔に
乳歯がキラリ      萩原教子 
荒れまさる野に残されて冽(きよ)く強く香を放ちおり
無花果一樹       藤巻みや子 
くやしくて怒りに拳握る吾の内臓器官
黙って働く       茂木惠二
【会友】
和菓子屋の菊の御紋の包装紙 献上に同行した人も
今はなく        板垣志津子  
小説の「庭」の小駅に降り立ちて盛衰語る
町並み歩く       井出堯之 
ネモフィラの苗数鉢を植えてみる憎きドクダミ
蔓延(はびこ)らぬ間に 川西富佐子 
手に乗るぐらいの捨てられた猫だったぬくもり冷めぬ
寝床の整理       土屋明美  
玉葱が沢山とれて軒下はさながら玉葱の
のれんのようで     中山幸枝 
舗装なきガタガタ道に向かい風負ける気なかった
自転車通学       牧野八重子 
【まほろば集】
クレヨンは海の青から減って行き二十四色
デコボコ並ぶ      石井恵美子 
赤城山の長き裾野に魅せられて生涯ここにと
決めたのです      佐藤和子 
【題詠[水]】 
撒く水が作る小さな半円 水を止めて
虹に別れる       藤巻みや子 
三村(さんそん)を流れ来し水ダムへ来て盛り上がるごと
緑に染まる       清水静子 
声上げるたびにムチムチ水風呂に遊ぶ幼の
お尻が二つ       石井恵美子 
つくばいに水滴りて手を清め茶席の順に
あいさつをする     佐藤和子 
水団(すいとん)を食って千曲の川泳ぎ
堰頓淵(せきとんぶち)にはカッパがいると
            大場ヤス子 
義経の東下りの伝統に「かけや清水」は
今も健在        板垣志津子 
散水は涼風誘う夏の夕草木の命
よみがえる瞬      﨑田ユミ                     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


雲海を破りてぐらり陽の昇る幻覚にいていのち
華やぐ         宮崎 弘 
来し方にむだの時間のありたるやボーと過ごせる
午後の陽だまり     同
夕さりて戦(そよ)ぎし欅しずまりぬ風に帰る
ところのありて     藤巻みや子
夕されば「かえる」と言いし父なりき未生以前を
人は求める       同 
藤房の露手のひらに束の間を身の紫に
染められてゆく     堀江良子      
草に伏し己が気配を消し去れば身は
銀漢の色に濡れいる   同

鮎の瀬に踏ん張っていし踝(くるぶし)のそれぞれは
ちちははに賜る     山下和夫  
あじさいの藍の花毬切る鋏撃ち落としたるは
他界の手なる      同
わが庭に伸びて一夏の青点(とも)すクレマチスも
風の中の蒼眠      同
【作品Ⅰ㋑】 
春が来れば咲く花のごと戦(せん)めぐりアキバ系
男子も出兵す      宮澤 燁 
満面の笑みなる人等は黄泉の人 この世のわれには
また新年が来る     牧口靜江 
大根は力を込めて切るものよ研げばなおさら
切れぬ包丁       江原幸子 
茶の友の喜寿を祝いて「あかとんぼ」オカリナの音色に
あわせて合唱      佐藤和子 
約束の時間を過ぎて来ぬ人を雨上がりの街に
待つも楽しき      石川ひろ 
流星群のピークに出かけふたつみつ数えること
無く帰る        元井弘幸 
【作品Ⅰ㋺】
地を削り太平洋へと利根源流萎えて久しき
我が脚たたく      相良 峻
新米に焚けるむかごのほろほろと晩秋の身を
ころがりてゆく     石井恵美子 
七十路のフィットネスマットの上(え)に「浜辺の女(おみな)」
ポーズ良好       赤石美穂 
手のひらを点すホタルの息づきに合せて
沢の涼を吸い込む    今井五郎  
脳トレとゲームにリセット繰り返しリセットできない
一日暮れゆく      佐藤真理子
【作品Ⅰ㋩】
春の日に ブロッコリー抜く親子見ゆ孫ははるかな
遠き地におり      天田勝元 
みこも刈る信濃の国の渋温泉霧わく山の
朝湯につかる      大場ヤス子 
「そうかもう」食器棚探し苦笑い愛用のマグカップ(マグ)
割ったのはわれ     菊池悦子 
初めての離乳食を食むひ孫双手挙げあげ
笑むはパパ似か     﨑田ユミ 
催促のつもりはなくてイチジクの美味をほめたり
朝の散歩に       清水静子 
河原(かわはら)の草木のみこみ葛の葉がつながりゆけり
巨大なアメーバ     反町光子 
老友は憮然としてかけてくるその強さを
たたえるなり      坪井 功 
認知症いや熱中症の気にかかる夏のセールの
葉書眺めて       萩原教子 
空が青筋雲が白の濃さ増した秋のスクランブル
交差点         茂木惠二
【まほろば集】 10首
義父の忌を幾たび迎へし歳月か三十四歳の
死の顔知らぬまま    佐藤香林 
戦地にてマラリア病みし義父なれば脳腫瘍にもなりて
死にしとふ       同 
愛しさを伝える言葉詰め込んで隠す心の
後朝(きぬざね)の文  今井洋一 
道長の詠みし望月見上げおり気がかり無きや
雲かかるとき      同
【作品Ⅱ】
色褪(あ)せし折鶴二羽が文箱に微睡(まどろ)むことも
許されぬまま      渡辺香子
【会友】
おのが身にあさかげあつめ蜜蜂の一つが残菊を
点検してゐる      板垣志津子
グラウンドも超高層ビルの中公立小の
授業始まる       井出堯之 
まだ霜の降りない朝の風を浴びて皇帝ダリアが
凛と咲きおり      川西富佐子 
早春に寒波到来氷点下梅の芽はまた
深く映る日々      土屋明美 
腎機能次第に強まる食べ方と新聞にのり
試しみる        中山幸枝 
白薔薇がハラハラ散りて軒のした母の最期は
六月の夜        牧野八重子 
【題詠】 宇宙 3首
ふんわりと箍(たが)の外れて宇宙に浮くヨガの
最後の無空のポーズ 石川ひろ 
宇宙よリ届きし光新たなる年の始まり
 川波揺るる    清水静子 
夕焼けのまだ残りゐる西空に輝きはじめる
宇宙のホタル    今井五郎 
人類の夢抱きつつ「コウノトリ」宇宙の駅に
飛び立ちゆきぬ   茂木惠二 
天秤座の鼾聞いてる水瓶座宇宙の中の
あなたとの距離   佐藤真理子 
下手なうたに慰解もとめて数十年 自分の居場所
自分の宇宙     板垣志津子 
イタリアに旅ゆく娘の乗っている飛行機見上げり
宇宙のつづく    大場ヤス子