2024年 第24回プログレス賞

第24回プログレス賞受賞作品 
  青春の襞  佐藤和子  30首
ねむの木の花そよ風にほの揺れて道ゆく人等仰ぎつつ往く 
空き家の白き山法師影淡く住みいし人の安否を思う 
引越しの葉書舞込み肌寒しミルク紅茶に寂しさ溶かす 
裏庭のもみじの梢ほんのりと色づきはじめ初恋想う 
耳順から二十年過ぎ無知の知の吾となりしか小菊を植える 
せせらぎの曲がり流れる音もして山友(とも)の写真に
豊かな時間 
野尻湖の紺碧の空の白い雲青春の襞になお細くあり 
親子連れがしゃがみこみ陽を背に燦々と受け野仏に
手を合わす 
遠くから野焼の見えし堤防も住宅街に遮られており 
猛暑日に行きたる夫の通院介護入口前にへなへなよろける 
日々夫に鰻重食べさせ介護する寝たきりコースへ
行かせまいぞと 
鱒寿司に添えられしたよりに雪国の従弟の体調不良が
にじむ 
疲れはて亡き祖母の声思い出す優しく励ましくれしあの声 
純粋な友の作りしリンゴジャム情も込められ心身ほぐれる 
九十五歳の薬剤師の女(め)は高貴なる笑顔みせたり吾もあやかりたし 
こまやかない師のもてなしに志気の湧き免許更新さらにと決める 
筒釜が炉の釣金にかけてありかすかな揺れに身が
ひきしまる 
閑静な清友庵の掛軸前わが鬼心を払拭させる 
木枯らしにたわわなる柿の実耐えている老老介護に
手伝いは無し 
難病を耐えいる人に会う散歩吾が負う荷などトンボの羽か 
師の古き随筆載せたる「普陀落(ふだらく)」が薫風にのり
友より届く 
山本一聿(やまもといっすい)先生が舐めし戦中戦後の
苦しみ震えつつ読む 
墨の香に書の大家なりし先生の声を姿を情熱を追う 
時空越え触れる恩師の書や言葉慕わしく今心洗わる 
夕映えにポインセ燃えている第九の合唱響けるように
山茶花の紅く咲きたる寒空に垣根が実家の空家が華やぐ 
老夫婦互(かたみ)に耳の遠くなり話しぶれても息は
合いゆく 
限定品の新菓子買いに自尊心を小雨に覆い足急がせる